イラストレーター向け 著作権登録情報公開のメリット・デメリット 変名登録の活用
著作権登録制度について、フリーランスのイラストレーターの皆様が「自分の作品を守るために利用すべきか」と検討される際に、様々な疑問や懸念を抱かれることがあるかと思います。特に、無断転載への対策として登録が有効なのか、費用はどのくらいかかるのかといった点に加え、「登録すると自分の名前や住所が公開されてしまうのではないか」というプライバシーに関する懸念もお持ちになるかもしれません。
日本の著作権法では、作品を創作した時点で著作権が発生し、特別な手続きは必要ありません(無方式主義といいます)。しかし、著作権登録制度を利用することで、著作権の発生や移転などの事実を国(文化庁)に登録し、第三者に対する対抗要件を得たり、権利行使を有利に進めたりすることが可能になります。
この記事では、著作権登録を検討されているイラストレーターの皆様に向けて、登録することでどのような情報が公開されるのか、その情報公開にはどのようなメリット・デメリットがあるのか、そしてプライバシーへの配慮として利用できる「変名登録」について、分かりやすく解説いたします。
著作権登録で公開される情報とは
著作権登録を行うと、その内容は「著作権登録原簿」という公的な書類に記録されます。この登録原簿は、原則として誰でも(利害関係を有することを証明しなくても)文化庁の使用許可を得て閲覧することができます。
登録原簿に記載される主な情報は以下の通りです。
- 著作物の種類および題号: どのような種類の作品で、どのようなタイトルか
- 著作権者または著作権の承継者: 著作権を持っているのは誰か
- 実名または変名: 著作権者が本名で登録しているか、ペンネームなどの変名で登録しているか
- 住所: 著作権者の住所
- 登録年月日および登録番号: いつ登録されたのか、登録にはどのような番号が付与されたのか
- 創作年月日: いつ作品が創作されたのか(これは作品の現物の提出などにより証明が必要です)
これらの情報のうち、特にフリーランスのイラストレーターの方が懸念されるのは、ご自身の「実名」や「住所」が登録原簿を通じて公開される可能性があるという点ではないでしょうか。
著作権登録による情報公開のメリット・デメリット
著作権登録によって著作権者に関する情報が公開されることには、作品を保護する上でメリットがある一方で、プライバシーに関するデメリットも存在します。
情報公開のメリット
- 権利者の特定が容易になる: 著作権侵害があった場合、相手方や裁判所が正式な著作権者を容易に確認できます。これにより、差止請求(侵害行為をやめるよう求めること)や損害賠償請求といった権利行使の手続きをスムーズに進めやすくなる可能性があります。
- 第三者への警告効果: 登録原簿の情報は公になるため、作品の利用を検討している者や悪意のある第三者に対して、「この作品には正式な著作権者がいて、登録もされている」という事実を示すことができます。これにより、無断利用を思いとどまらせる一定の警告効果が期待できます。
情報公開のデメリット
- プライバシーの懸念: 実名や住所が登録原簿に記載され、誰でも閲覧可能になることは、フリーランスとして活動される上でプライバシーの面から懸念となる場合があります。特に、自宅を仕事場としている場合など、住所の公開は避けたいと考える方もいらっしゃるでしょう。
- 嫌がらせやストーカー行為のリスク: 極めてまれなケースではありますが、登録情報が悪用され、権利者への嫌がらせやストーカー行為に繋がるリスクを完全に否定することはできません。
プライバシー配慮のための「変名登録」の活用
実名や住所の公開に懸念がある場合、著作権登録において「変名登録」という方法を活用することができます。
変名登録とは
変名登録とは、著作権者が本名(実名)ではなく、ペンネームや雅号、筆名といった「変名」で著作権登録を行うことです。イラストレーターの方であれば、普段活動されているペンネームで登録することが考えられます。
ただし、変名登録を行うためには、単にペンネームを記載するだけでなく、その変名がご自身の「周知の変名」であることを証明する必要があります。「周知の変名」とは、その名前を見たり聞いたりした人が、特定の著作権者であるあなたを容易に連想できる程度に広く知られている変名のことを指します。どのような証明が必要かはケースバイケースですが、作品集への掲載、商業的な発表実績などが考慮されることがあります。
変名登録のメリット
- プライバシーの保護: 登録原簿に実名ではなく周知の変名が記載されるため、プライバシー保護に役立ちます。不特定多数の人に本名や住所が知られるリスクを軽減できます。
- 活動名との整合性: 普段ペンネームで活動されている場合、登録名と活動名が一致している方が、ご自身の作品と著作権登録を紐付けやすく、第三者にも分かりやすくなります。
変名登録のデメリット・注意点
- 「周知の変名」であることの証明: 変名登録を行うためには、その変名が広く知られていることの証明が必要になります。これは実名での登録にはない手間となります。
- 実名との紐付けが必要: 変名登録の場合でも、申請書類上では必ず実名と住所を記載する必要があります。登録原簿には原則として変名が記載されますが、文化庁では変名と実名を紐付けて管理しています。権利行使の際など、状況によっては実名の開示が必要になる可能性もゼロではありません。
- 権利行使時の手続き: 変名で登録している場合、権利行使の際に、登録されている変名が確かにご自身(実名)のものであることを改めて証明する必要が生じるなど、実名登録に比べて手続きがわずかに複雑になる可能性も考えられます。
登録費用と手続きの概要(情報公開・変名登録に関連して)
著作権登録には費用がかかります。登録の種類によって異なりますが、例えば著作権の最初の登録(創作年月日と著作権者の登録)を行う場合、登録免許税として1件あたり数千円、文化庁に支払う手数料として数千円程度が必要です。これに加えて、登録手続きを行政書士などの専門家に依頼する場合は、別途専門家への報酬が発生します。
登録手続きは文化庁に対して行います。申請書に必要事項を記載し、作品の現物や、創作年月日を証明する資料(例えば、作品の完成日時が記録されたデータや、公表の記録など)を添付して提出します。変名登録を希望する場合は、上記の資料に加え、その変名が周知のものであることを示す資料も提出する必要があります。
登録原簿の閲覧は、文化庁の著作権課で申請して行うことができます。閲覧自体にも手数料がかかります。
まとめ
フリーランスのイラストレーターの皆様にとって、著作権登録は作品の保護を強化する有効な手段の一つです。しかし、登録によってご自身の情報がある程度公開されるという側面も理解しておく必要があります。
実名や住所の公開に懸念がある場合は、「変名登録」という選択肢があります。これはプライバシー保護に役立ち、普段の活動名との整合性も図れるメリットがある一方で、「周知の変名」であることの証明が必要であったり、権利行使時に実名との関連を示す必要が生じたりする可能性といった注意点もあります。
著作権登録を行うかどうか、行う場合に実名で登録するか変名で登録するかは、ご自身の活動スタイル、プライバシーに関する考え方、作品の性質などを総合的に考慮して判断することが大切です。著作権登録制度についてさらに詳しく知りたい場合や、個別の事情に合わせたアドバイスが必要な場合は、著作権に関する専門家にご相談いただくことも有効です。
ご自身の作品を安心して創作し、発表していくための一助として、著作権登録制度を正しく理解し、ご自身にとって最善の方法をご検討いただければ幸いです。